わたしの全ての物語(仮)

ほとんど海外児童書

『葉っぱの地図』(ヤロー・タウンゼンド 作 /井上 里 訳/小学館)

作:ヤロー・タウンゼント
訳:井上 里
出版社:小学館
出版年:2023年
舞台:(出版国)イギリス
ISBN:978-4092906693

*2023年ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト選出。

本書は、植物の声が聞こえる少女が、大切な庭と母の名誉を守るため旅に出るファンタジーだ。

12歳のオーラは母を亡くし、〈野いばら村〉のはずれにある小屋でひとりで住んでいた。友だちは庭の植物と愛馬のキャップだけだ。ある日、キャップが怪我をしたので薬草で手当てしたが、なぜか効かなかった。よく見ると、葉っぱに黒い染みがある。村では原因不明の病が流行っていた。村の総督は、病の原因は植物だと言い、オーラの庭を焼き払おうとする。

村の総督はインク作りで財を成していた。その屋敷はオーラの小屋の近くにある。オーラの亡き母は植物に詳しく、薬草が作れたため、総督に請われ、屋敷で病人の手当てをしていた。しかし、母も同じ病で亡くなってしまう。総督は、村に病を持ち込んだのはオーラの母で、インチキな治療で人々を騙してきたという噂を流した。

オーラには母の日記が残されていた。そこには薬草の効能と、暗号で書かれた地図があった。オーラは地図をたどり、治療薬を探す旅に出ることを決めた。村の仲間とトリオを組み、舟で川をさかのぼっていく。仲間は、病の兄を助けたい少年イドリスと、お屋敷に住む賢い少女アリアナだった。

オーラたちが冒険で戦うのは、保身と利益のために平気で人を犠牲にし、息を吐くように嘘をつく悪党だ。そんな悪党に果敢に挑むオーラに拍手を贈りたい。オーラは母の尊厳を傷つけられ、心はかなしみでいっぱいだった。オーラは人を頼るのが苦手で、ときに意地をはり、仲間に苛立ちをぶつけてしまうこともある。その姿に等身大の子どもらしさを感じたので、オーラがゆっくり心を開いていくようすに自然と寄り添うことができた。

この物語には、文字通り、オーラに声援を送る植物がいる。オーラの庭で、そこここの道で、たくましく根を張るさまざまな植物たちだ。オーラに暗号や、謎解きのヒントをささやき、証人の役目を果たしてくれる。それがこの物語の最大の魅力だ。鍵になる植物たちは、章のはじめに挿絵と効能が書かれ、物語に光を添えている。