わたしの全ての物語(仮)

ほとんど海外児童書

“Birdsong” Text by Katya Balen /Illustrations by Richard Johnson/Barrington Stoke,England)

作: Katya Balen(カチャ・ベーレン)
絵: Richard Johnson
出版社:Barrington Stoke,(Kindle)
出版年:2022
出版国:England

 

この作品 "Birdsong" は、邦訳『ブラックバードの歌』(カチャ・ベーレン 作/千葉茂樹 訳/あすなろ書房)が2023年10月に刊行されています。この感想は原書を読んでのものです。Katya Balen(カチャ・ベーレン)は1987年に英国で生まれた作家で、2022年に、英国で最も権威のある児童文学賞であるカーネギー賞で大賞とシャドワードチョイス賞(大賞候補作の中から若者が選んだ賞)を同時受賞しました。特別支援学校に努めた経験を持ち、自閉症ADHDの人々の芸術活動を支援する活動もされています。 

*概説/感想

主人公のアニーはフルート奏者で、まわりの音が音楽に聴こえる少女。母の運転する自動車事故で腕を怪我し、音楽学校の入学をあきらめていた。都会のアパートに越してから、車のブレーキ音や、コンクリートに響く靴音を耳にするたびフラッシュバックが起きていた。リハビリにもやる気が出ず、部屋にこもっていたとき、アパート前の生垣で少年ノアと出会った。

ノアはアニーに秘密の生垣を見せた。その奥ではブラックバードのつがいが巣作りをしていた。コンクリートだらけの都会では餌がなかなか見つからないし、あっても上手く運んでくることができない。巣の材料になるようなものもないから、ノアは生地の端切れを生垣に置いた。ノアの母は服を仕立てる職人だから生地ならたっぷりある。ノアの登場で、それまでモノトーンだったアニーの世界が彩られていくのがわかった。

生垣にいたブラックバードは、都会の音——リュックサックのジッパーの音、土を踏むくつ音、風が葉っぱを揺らす音——にあわせて歌を紡いだ。それらはブラックバードが編む、独自の曲だ。だが、悲しい出来事が起こり、ブラックバードは歌を歌えなくなってしまう。痛みを知る一人の少女と一羽の雌のブラックバードが結ぶシスターフッドに胸を打たれる。

アニーに力を添える少年ノアのキャラクターがいい。すごいものを見せたい一心で、アニーの怪我を知らずに自分の世界に引き込んだ。そんな強引さがうれしいこともある。「明日も同じ時間に、またね!」とノアが言ったのでアニーは〈明日〉があると気づいたのだ。

(記:2023/11/28)